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   現在日本では企業・家庭内へのインターネットの普及が進んでいるが、その一方で教育分野は他国に比べて遅れているという面が指摘されている。これはインフラ側の問題だけではなく、教育現場におけるPC導入の姿勢が、一般企業などと違うことが大きく影響している。独立行政法人メディア教育開発センター 理事長の清水康敬氏と、早稲田大学理工学部 教授 工学博士の後藤滋樹氏は、教育現場でのIT活用の取り組みや問題点を包括的に捉えている。
 「日本では早くから教育現場へのPC導入が進められていました。しかし校内にコンピュータ教室を設置することに重点を置いていたため、通常の授業でPCを活用することができません。海外では一般の教室にもPCを設置して学習意欲の向上に役立てていますが、残念ながら日本ではPCの普及率に対して十分な効果が得られていないのです」
 清水氏は現状についてこう語る。
 米国や英国、韓国、シンガポールなどでは、教室などでインターネット接続環境が整備されている。英国などでは生徒が教科書に加えてインターネットを勉強に活用することで、学力アップにつなげているというデータもある。日本で同様の活用を行うには、「教師や生徒のインターネット利用に対するスキル不足と同時に、学校に導入された回線のブロードバンド化の遅れが懸念材料」(清水氏)とされる。これらの問題を解消することが、インターネットと教育を結びつける上で非常に重要だと、清水氏は訴える。
 教育現場にブロードバンド環境を導入する試みとして、1990年代に「学校インターネット100校プロジェクト」が通商産業省(当時)主導で行われた。このときは、日本では特定の企業が公立校の活動に参加するのは難しいことを踏まえ、インターネット協会に教育部会を設置した。企業やプロバイダの技術者と教師のボランティアによって進められたこの活動によって、現在は約3,000校へブロードバンド回線が導入されている。
 「ネットワーク運用の一環として、小・中・高校向けにed.jpドメインを新設するなどの取り組みも行っています。ただ、発展途上にあるインターネット技術は、さまざまな問題が発生します。生徒や教師に負担をかけない体制作りが必要であり、PC・ネットワーク業界もこれをできるだけ支援すべきだと思います」(後藤氏)
 かつて明治時代の初めに、黒板という新しい道具が授業に導入されたとき、それまでと比べて大きな教育効果が得られたという。では、同じく新しい道具として位置づけられるPCはどうかというと、これまで直接的な効果は見られなかった。これは授業を受ける際の生徒の視線が大きく影響していると清水氏は言う。
 「教師が黒板に書いた重要箇所を指し示すとき、生徒はその場所に視線を合わせます。このとき生徒は教師の手元に注目しているのです。PCの画面をプロジェクターなどで映した場合、生徒の視線は操作している教師の手元=マウスに注目してしまいます。これでは生徒の意識が重要な箇所に集中できません」
 この問題を解決するものとして注目されているのが、画面上で直接操作できる「インタラクティブホワイトボード(電子情報ボード)」だ。黒板のように直接教師が画面上で操作でき、写真やデータの表示も行える。さらに過去の書き込みの再利用も容易だ。黒板に代わる機器として、教育効果を高めるものと期待されている。
 教育効果を得るためには、生徒のレベルに合わせた情報の提供も欠かせない。そこで、インターネット上の情報をまとめ、学習指導要綱に沿った情報検索が可能なポータルサイトの構築が、NICER(教育情報ナショナルセンター)として進められている。ここでは「学習オブジェクトメタデータ」という情報を付加することで、生徒の年齢や学年による言語レベルに合わせた情報検索を可能にしている。2004年5月からテストが行われており、登録情報は約10万件に達している。学習指導要領に則ったキーワード検索サポートや、漢字表示にルビを添付するといった支援ツールの開発も同時に進められている。
 こうした情報を活用する仕組みづくりと同時に、インターネットから得られる情報の取り扱い方、メディアリテラシーについての議論も行われている。
 「私たちがこれまで常識としてきたことは、あくまで日本の中だけのことです。インターネットを通じて、他国の常識と接するグローバルな機会が増えています。膨大な情報に溺れることなく、どれだけ自分を守れるか、を自覚できる教育が必要だと考えています」(後藤氏)
 「インターネットの影の部分に打ち勝てる、強い心を育むことが課題です。そして、日本のことを学び、さらに世界の人々と学び合うことのできる教育が求められているのです」(清水氏)
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