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   ビルなどの大型建築物の内側には、用途別に多くのケーブルが敷設されている。これらのケーブル上に流れているデータをすべてIPベースの回線に統合し、ひとつのネットワークで管理する試みが現在進行中だ。清水建設株式会社 エンジニアリング事業本部 情報ソリューション本部の大山俊雄氏は、こうした取り組みが今後の鍵を握ると力説する。そして、この取り組みを主に技術的な側面から支えているのが、横河電機株式会社 執行委員 CMK本部の富田俊郎氏だ。
 「これまでのビル建築において、ケーブルの敷設は大きな問題となっていました。それは、LANケーブルをはじめ、電話回線やアンテナ線、ビル管理など、複数の用途それぞれで個別のケーブルを引いているからです。配線自体が複雑になるだけでなく、結果的に部材費をはじめとする敷設コストの増加は避けられないものだったのです」
 大山氏は、これまでのビル建築計画の問題点をこう語る。
 現在、VoIPや各種映像転送技術によって、既存の専用回線からIPベースのネットワークへの乗り換えが進んでいる。これらはすでに一部のビル建築などで利用されているが、一方で空調や照明、物理的なセキュリティといったビル管理システムは旧来の専用機器による制御が一般的だ。そこで、この制御系システムも含めてIPベースに移行させ、ビル内でやり取りされる情報すべてをひとつのネットワーク上に統合する試みが行われている。
 ビルを新築する場合、ケーブルの敷設にはそれぞれ別のコストが発生する。ケーブルの本数を減らすことができれば、大幅なコスト削減を果たせる。さらに敷設時の工程管理でもメリットがある。これまでは個別にケーブルの配線を行うため、業者ごとに別々の工期が必要で調整も面倒だったが、それを一本化できるからだ。
 回線の一元化は、既存ビルの改築時にも大きなメリットを生むと、大山氏は強調する。
 「既存のビルにおけるケーブルの敷設状況を検査するのは困難ですし、見積もりを含めて膨大なコストがかかります。敷設回線の統合化によって、最小限の投資で新築のインテリジェントビルに負けないネットワーク環境を、既存のビルでも実現できるようになるわけです」
 この試みを後押ししているのが、IPv6の技術だと大山氏は言う。ビル管理システムで監視制御する管理ポイントの数は、通常のビルでも数千点ほど。大規模なものの一例として六本木ヒルズを見てみると、16万点近くにも及ぶ。従来のIPv4ではアドレスが足りず、オフィス用途とIP電話、映像配信に加えてビル管理の情報を、すべて同一のIPベースのネットワーク上に構築することはできない。ここにIPv6技術を導入すれば、それぞれに固有のアドレスを付与でき、IPベースのネットワークにまとめられるという案配だ。
 IPv6によって機器ごとのIPアドレス割り当てが進めば、ビル管理の方法も一変する。これまでのシステムでは、各々のビル内でいったん情報を集約し、管理センターから管理会社へデータを送っている。情報伝達に複数の段階があるため、管理会社側でビル内の機器ごとの運用情報を個別に取得するのは困難とされてきた。IPv6技術で各機器に一対一で対応するIPアドレスを割り当てることができれば、管理会社から特定の機器の状況を直接監視することも可能になる。
 この技術を導入したビルが先日施工された。現状ではIPv6に直接対応した設備機器がないため、横河電機が開発した「マイクロノード」という製品を使用してIPv6ベースの機器制御を行っている。富田氏は、ネットワークの一本化とIPv6の導入が、ビルの管理や運営にも多くのメリットを生むと話す。
 「ネットワークがシンプルになると同時に、再構成もしやすくなります。建物内の引越しや配置替えがあってもケーブルはそのままで、ソフト側の変更だけで対応できるわけで、結果として大幅なコストダウンにつながるでしょう。また、各機器を個別に認識できるようにすることで、細かな維持管理が行えるようになります。建築や改装時だけでなく、実際に機器を運用する段階でも、さまざまな負担を減らすことが期待できると思います」
 新しく施工されたビルとこれまでのビルの管理システムを比べて、大山氏は大きな手応えを感じている。今後IPv6のマイクロチップ化が進んで各種の機器に実装されれば、ビル管理のネットワーク化が簡単に行えるようになるだろう。
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