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  バイオ・創薬研究は今、大きな転換期を迎えようとしている。そのキーワードとなるのが「グリッド技術」だ。複数のデータベースを結びつけ、そこで得たデータをグリッドコンピューテイング技術でシミュレーションする。非常に膨大な計算力を必要とする生命現象の解明において、多大な効果を得られる可能性は高い。大阪大学サイバーメディアセンターの下條真司教授は、日本のバイオ研究とグリッド技術の橋渡しに力を注いでいる。
 下條氏はバイオ研究におけるIT技術の導入のきっかけについて、「現在、バイオ研究の分野ではITとのつながりが求められています。これはゲノム配列という生命現象の最小単位が明らかになってきたことが大きな要因です」と語る。
 ゲノム配列は、ITの世界における「bit」にあたるという。ゲノム配列の積み重なりによって、たんぱく質の構造や相互作用、パスウェイなどの情報が解明されていく。それをbitの積み重ねで構築されたITの世界になぞらえることで、相互に理解できる下地が生まれると考えているわけだ。生命機能の全体像をコンピュータ上のデータに置き換えて、さまざまな事象の解明へつなげていくことが求められるとき、高度なIT技術が不可欠となるのは当然と言えよう。
 生命機能を解析する上で重要なのが、ゲノムデータベースへのアクセスだ。研究者の多くは、自己の対象分野を詳細化/個別化していく傾向があり、1人の研究者がひとつのたんぱく質について専門的に研究を行うことが多い。一方、創薬する側は複数のたんぱく質の相互のつながりを入念にチェックし、効能を確かめていく必要がある。そこで求められるのが、各たんぱく質の研究者の成果を蓄積したデータベースをリンクさせ、そこから適切な情報を得られる環境である。膨大で詳細なデータへ高速かつ効率よくアクセスするのは、まさにIT技術のなせるところだ。
 「データベースから情報を得るだけでなく、研究結果を元にシミュレーションを行うことも生命機能を解析する手段のひとつです。そこでは大量のデータを元に高速に解析するための技術が求められています」
 データベースへのアクセスと高速なシミュレーションの2つが、バイオ研究の要であると下條氏は結論づける。「そこで注目しているのがグリッド技術です。データベースを統合するデータグリッド。そして分散計算を行うコンピュータグリッド。この2つのグリッド技術の役割がますます高まっていくことは間違いないでしょう」
 新たな創薬をしていく上で、実験で得た化合物をもれなくすべて試すのではなく、データとシミュレーションを効果的に活用していく技術や環境の整備が重要さを増している。研究室という閉ざされた空間から、大きなネットワークの中でデータの検索・検証やシミュレーションを行うことが、今後の大きな鍵となるのだ。
 現在下條氏は「バイオグリッド・プロジェクト」を進めている。これはインターネットが世界中の人々をつないだように、グリッド技術によって世界中のコンピュータを相互に連携させ、これまでにないインフラを築くことを目標としたものだ。
 生命現象をシステムと捉えて研究を進める場合、個々のコンピュータ単体では計算能力やデータ蓄積の面でまだまだ力不足を感じるという。多数のコンピュータを相互に接続する環境下でのセキュリティの問題や、データ転送を高速化するネットワークの整備など、課題は多い。こうした点を解消するために、IPv6を基本としたセキュアなネットワークを構築し、さらにグリッド技術によるデータの分散処理を行うという取り組みが、最も有力なものとして考えられている。
 また下條氏は、これらの問題を解消するために必要なのは技術だけでなく、それを活用できる人材であると考えている。
 「バイオ研究者とIT技術者の相乗効果が、今後のバイオ研究分野で必要であり、両者の関係が今後ますます深まっていくことは確実です。分野の壁を越えた積極的な知識交流によって、最終的な大きな成果を生み出す下地となるでしょう」
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