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   IT化の遅れが指摘されている医療・介護・福祉の分野。そこに求められるのは、院内の情報化はもちろん、地域住民を含めた医療情報の共有化や遠隔医療まで幅広い。医療の情報化は地域住民や患者中心の医療を実現するための強力な支援ツールとして認知されるようになり、その導入が急がれている。地域医療ユニット構想を推進している京都医療センターで医療情報部長と産科医長を兼務する北岡有喜氏と、慶應義塾大学環境情報学部専任講師 南政樹氏に話を聞いた。
 北岡氏は「自分自身が行っている医療が正しいのかどうか」自己評価ができないという疑問が「地域医療ユニット構想」の発端であると語る。
 「医師が自己の医療を評価できないのは、その基本となる日本全体の診療データが集積しにくいことにひとつの要因があります。診療データが得られないことで、日本人特有の代謝システムが医療に反映されません。これは日本独自の医療ができないということにもつながっています」
 北岡氏は伏見医師会を中心として「地域医療ユニット」の立ちあげを行った。医師が必要とする医療行為すべてのデータを蓄積するための仕組みである。そこでは高度先進医療を専門とする施設だけでなく、地域全体の診療所も含めた形でデータを収集している。このデータを元にして、納得できる正しい医療を行う体制作りを実現しようと考えていた。しかし、この構想が医師側の発想に依ったもので、地域住民の視点が欠けていることに気づいたという。
 そこで北岡氏は今年5月、新たに「どこカル・ドット・ネット」というNPO団体を設立。地域住民側から「生活者起点の医療」や「必要な医療サービス」とは何かを考える環境作りを行った。自分たちが欲しいと思う医療・福祉の環境を実現するための仕組み作りを行っている。
 構想のベースとなるのは、カルテの電子化によって医療者が医療に必要な情報をいつ・どこでも入手できる環境を整備すること。そのためには公衆無線インターネットやモバイルコンピューティングといった下地が求められる。さらに個人情報を含む医療情報を扱うために高いセキュリティ技術も必須となる。
 北岡氏は、今後の取り組みについて次のように語る。
 「電子カルテによって、これまでの医療情報の蓄積が、医療・健康をトータルにサポートするための記録として利用できるようになると考えています。患者さんがネットを使えなくても、訪れる医療者が情報に接続できる環境作りが大切です。これが日本中に広がれば、専門性が要求される疾患にもWebカメラなどを利用した遠隔医療を施せるなど、さらに可能性は拡大するでしょう」
 現在、同様の試みが神奈川県藤沢市で行われている。「e-ケアタウンプロジェクト」を推進する南氏は設立の目的をこう語る。
 「医療情報を集める必要性は、医療現場だけでなく、介護を含めたヘルスケアの分野でも同様です。必要な看護や介護を、地域住民に行き渡らせる仕組み作りが求められているのです」
 同プロジェクトでは、IPv6をベースとした最新のインターネット技術に加え、新しく開発した情報機器を積極的に導入して質の高い看護と介護を行える仕組み作りを目指している。例えば、継続した情報の蓄積が求められる体重や血圧など、計測したデータを直接計測機器から収集可能にするといった試みが実際に行われている。こうして集められた情報が、個々人のニーズに合致した看護/介護を行う上で重要なデータとして活用できるようになる。
 すでに2年間の実験期間が経過し、情報を収集する段階から、それを活用する段階へと移行が始まっている。そこでは情報流通の基盤作りと同時に、情報のセキュリティについても多くの議論が行われている。その情報が誰のもので、誰にアクセスを許可し、どう扱われるべきかを定義する段階に入ってきていることは間違いない。ここに、医療や介護とネットワーク技術が結びついて生まれている、新しい芽を見ることができるだろう。
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